金沢地方裁判所 昭和24年(行)9号 判決
原告 山口俊三
被告 金沢税務署長
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は、「被告が昭和二十四年二月二十八日なした原告の昭和二十三年度所得金額百三万八千円とする旨の更正決定はこれを取り消す、訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求原因として、原告は肩書地で金融業をなしている者であるが、所得税法に基く原告よりの昭和二十三年度の確定申告に対し、被告は昭和二十四年二月二十八日原告の右年度における所得金額を百三万八千円とする旨の更正決定をした。しかし乍ら、原告は金融業をはじめてより日なお浅く且又損失もおびただしいので右のような莫大な所得は毫もなく、わずかに四十万五千八百七十九円七十六銭の所得があつたにすぎない。よつて原告は右決定を不服としその通知を受けた日から一ケ月以内である昭和二十四年三月二十四日金沢財務局長に審査請求を爲したけれども同局長は何らの決定をしないまま茲に三ケ月以上の時日が経過したから、直に本訴を提起し右違法行政処分の取消を求めるため本訴に及ぶと述べ被告主張事実を爭い、被告は原告の昭和二十四年度中の貸借関係である訴外坂井友の十万円、西谷一正の二十万円、南善次郎の三万円、塚田凡堂の十万円合計四十三万円までをその前年度の所得の一部計上している利息の計算も約定以下にしか受領していないと述べた。(立証省略)
被告指定代理人は主文第一項同旨の判決を求め、その答弁として、原告主張事実中原告が金融業者であること、昭和二十四年二月二十八日原告の昭和二十三年度の確定申告について被告は同年度の所得金額を百三万八千円とする更正決定をしたこと、原告はこれに対しその主張する如く審査請求をしたけれども、その決定をみずして今日に及ぶことは孰れもこれを認めるがその他は否認する。被告は調査の結果原告の昭和二十三年度における一ケ月の流動資金を八十六万五千円、その利子一ケ月一割八万六千五百円と見積り、同年度の所得を合計百三万八千円と更正したのであるが、その後原告より融資を受けている訴外細川栄造外百二十八名の貸借関係の個人別調査をはじめ原告の帳簿等によつても同年度の貸付金額は四百三十八万二千九百四十円にのぼり、その利息收入は百九万九百八十四円、その他の收入六十三万二千八百八十六円となり合計百七十二万三千八百七十円の收入があつたことが判明し、これから原告自身が申立てる支出経費十四万九千五百四十円を差引いても裕に百五十七万四千三百三十円の所得があつたこととなり、当初の更正額は低きに失した点があつたのである。而して、原告は確定申告で二十三万七千六百五円の所得があつたとし乍ら審査請求当時は二十万九千一円七十六銭とし、今また本訴では四十万五千八百七十九円七十六銭の所得があつたと主張しているが、この点からしても原告の主張は虚僞である。よつて原告の本請求は失当である、と述べた。
(立証省略)
三、理 由
原告は肩書地で金融業を爲しているが被告は原告から出された昭和二十三年度の確定申告に対し、昭和二十四年二月二十八日原告の所得金額を百三万八千円と更正決定をしたこと、これに対し原告は金沢財務局長に審査請求をしたが、今なおその決定がなされていないことは当事者間に爭がない。
原告は昭和二十三年度の所得金額は四十万五千八百七十九円七十六銭であると主張し被告はこれを爭い、少くとも百三万八千円であると主張するから按ずるに、証人角川七次、同新堂清人の各証言並に同証人等が調査の結果金沢税務署で整理調製した乙第二号証ノ一・二、同第三号証ノ一を綜合すると原告が被告の更正決定について異議を述べ、本訴を提起した後、被告の方で更に角川事務官、新堂事務官等を派遣して詳細に調査した結果昭和二十三年度にあつた原告の貸付関係は、その人員にして百二十五名に及び、その貸付年月日、金額、利息等については公正証書のあるものはそれにより、それがないものについては原告本人の供述、その帳簿、その他借主本人の個人別調査によることとし、それによるとその貸付総額は四百三十七万四千八百九十円であつて、その利息收入は百五万千三百五十二円であり右貸付について原告がその都度領收した手数料その他の雜收入が、合計して六十一万四千八百三十六円になつていることが認められる。右認定に反する乙第十号証の記載は証人梅下裕太香の証言によりこれを眞実なるものとは信用できない。すなわち原告の昭和二十三年度の総收入は百六十六万六千百八十八円であることが明かであるが、原告はこれに対し、訴外坂井友の十万円、西谷一正の二十万円、南善次郎の三万円、塚田凡堂の十万円合計四十三万円はいずれも、昭和二十三年度中のものではなく翌二十四年度のものであると主張し証人塚田仁三郎、同西谷一正は一部右に副う供述をしているけれども眞正に成立したと認められる乙第四号証、同第八号証、証人梅下裕太香の証言に照し措信し難く、その他の証拠によつても前記認定をくつがえすに足るものがない。又原告は約束どおりの利息は收納していないと爭つているけれども、ただそのように爭うだけであつて、被告の方で具体的に借主の名をあげ、且つその利息收入の関係を明かにしているにかかわらず、少しもその收納していない者はどれかを明かにしないから、これを斟酌することはできない。然らば、原告の昭和二十三年度の所得は合計百六十六万円以上あつたと謂うべきであり、被告が原告の確定申告を不当とし、見積り調査として一ケ月の流動資金を八十六万五千円、その利息收入をその一割である八万六千五百円と計上し、一ケ年の所得を合計百三万八千円と更正したのは結局原告の所得を不当に見積り更正したということができない。
仍て原告の昭和二十三年度の所得金額が百三万八千円以下である。原告主張の四十余万円であることを理由とする本訴請求は理由がないから失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用については民事訴訟法第八十九條、第九十五條に則り主文のように判決する。
(裁判官 北野孝一 米光哲 向井哲次郎)